【家族信託】手続き・費用・メリット・デメリット

家族信託

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不動産や現金などといった財産の管理を信頼できる人に任せることを信託といいますが、この信託には主に2つの種類があります。1つは専門の信託会社や銀行が営利目的で行う商事信託で、もう1つは家族や親族などの信頼できる人物に託す民事信託です。今回は民事信託の中でも信頼できる家族に財産の管理・運営を任せる「家族信託」についてご紹介していきます。

家族信託とは

家族信託とは文字通り、家族や親族に財産の管理を託すことです。家族信託は、財産を持っている<委託者>が、管理を任せたい財産(信託財産)を信頼できる<受託者>に託し、信託財産から得られる収益を<受益者>が受け取る、という仕組みになっています。さらに身内に管理を任せることになるため高額な報酬を支払う必要もありません。

日本人の平均寿命は年々伸び続けています。年を重ねるごとに身体的な障害や認知症などを理由に意思判断能力を喪失してしまうケースも多く、そうなった場合には遺言書の作成や様々な契約の締結・破棄、相続に関するあらゆる問題などに関わることができなくなってしまいます。家族信託はそういったリスク回避の側面だけでなく、契約の委任や成年後見制度などの機能も含んだ制度なのです。家族信託

家族信託の7つのメリット

ここではまず家族信託のメリットについてご説明していきます。成年後見制度との違いや、財産管理は容易になるのかなど、認知症などで判断能力に支障が出てしまう前に注目される理由を確認しておきましょう。

メリット1:成年後見制度に代わるフレキシブルな財産管理

成年後見制度は、定期的な家庭裁判所への報告義務があったり、不動産の売却など積極的な財産の活用や生前贈与などの相続税対策がしにくかったりと、制約や負担が案外多いものです。さらに被相続人本人の意思判断能力が低下・喪失するまで財産の管理を行えないというデメリットもあります。

家族信託は本人の判断能力があるうちから事前に信頼できる人物に財産管理を任せることが可能です。家族信託契約をする際には信託契約書を用意するので、その中に本人の希望や方針を記載しておきます。その希望などに反さないよう、受託者は財産を管理、活用、あるいは処分します。信託契約書によって本人の意向に沿った財産管理が行われるため、万が一被相続人が判断能力を喪失した場合でも安心です。

メリット2:親の財産管理が簡単になる

家族信託をすることで、高齢な親の財産管理を容易に行うことができるようになります。家族信託は親が健在のうちに財産管理を受託者に任せることになるので、本人が認知症などで判断能力がなくなってしまった場合でも、財産が凍結され管理できなくなるということもありません

その後は受託者が主導となり財産の管理運営・処分をスムーズに実行することができます。後見制度とは違い、様々な手続きなどに後見人の同意を得る必要もありませんし、将来空き家になってしまう可能性のある家などを受託者が適切に売却処分できるようになります。他にも贈与税の控除を受けたり、詐欺被害への対策などもできるようになったりします。

メリット3:遺言書を書く必要がなくなる

事前に家族信託をしておくと、遺言書を書く必要がなくなります。なぜなら家族信託は、遺言書の効力をプラスしたものだからです。有効な遺言書を作成するには様々な規定や正しい書き方に従う必要があり、面倒だと思われがちです。しかし家族信託は、委託者と受託者の間で契約を交わすことになるので、わざわざ遺言書に従う必要がなくなります。信託契約書の中で、被相続人本人が死亡した後に行われる相続財産の分割方法や継承者を指定できたり、受託者が引き続き財産の管理を行ったりすることもできます。

メリット4:二次相続の指定も可能になるなど、自由な相続ができる

遺言書では被相続人が亡くなった際の、一次相続の方法や相続人を指定することしかできませんが、家族信託では二次相続以降も指定することができます。また遺産分割方法から、分割する際の相続順位まで指定することもできるようになります。家族信託では、被相続人、相続人など個々人の希望に沿った、自由な相続が可能です。このように遺言書よりも自由度が高いことが家族信託のメリットでもあります。

メリット5:共有不動産問題・共有相続の紛争の予防にもなる

既に共有して不動産を所有している場合や、将来的に兄弟姉妹などが共同で相続する場合は様々なトラブルが生じる可能性があります。共有不動産は、共有している相続人全員が協力しないと処分ができません。そのため不動産を共有する場合には、適切な時期や価格で不動産を売却処分したり、有効活用したりできなくなってしまう危険性もあります。

家族信託を利用することで、相続権利や財産的価値は共有者間で平等を保ちつつも、不動産の管理や処分をする権利は一人に集約させて前述したようなリスクを回避することができます。

メリット6:家族信託の倒産隔離機能によって信託財産が守られる

家族信託には倒産隔離機能というものがあります。これは万が一委託者や受託者が多額の借金をするなどの債務を負ってしまった場合でも、信託財産に関わらないことであればその財産は差し押さえられないというものです。

メリット7:相続をする際のトラブルを回避・軽減できる

成年後見制度や家族信託といった財産管理のための対策は、意思判断能力が喪失してしまってからでは行うことができなくなってしまいます。被相続人が突然亡くなってしまうと財産の凍結など、相続人にも様々な問題が発生します。

事前に家族信託契約を締結して、賃貸契約などの名義を変更するなどしておくと、それらの契約に関する手続きなどに対応することができるようになります。賃貸における契約や更新といった手続きができなくなるというリスクを避けるためにも、家族信託は役立ちます。受益者を変更したい場合にも、契約者にその旨を記載しておくことで、遺言書を書く必要もなくなります。

財産管理にかかる費用を抑えられる

家族信託は、財産管理を託す本人だけでなく、家族にも様々なメリットがある制度です。老朽化した賃貸物件の立て替えや不動産の買い換えといった財産の組み換えや、様々な相続対策などがその主な例です。

また成年後見制度を利用すると、後見人や後見監督人に対して報酬を支払わなければいけないなど、月々の出費も負担になってしまうことがあります。しかし家族信託であれば、財産管理を任せるのが家族や親族なので、経済的負担も軽減することができます

家族信託の6つのデメリット

次に家族信託のデメリットについてご説明していきます。家族信託におけるデメリットやリスクはあまり取り上げられていませんが、万全な制度というものは存在しません。いくつか注意しなければいけない点を見ておきましょう。

デメリット1:遺言書を残さなければいけないケースもある

家族信託には様々なメリットがありますが、家族信託だけでは難しい部分があるのも事実です。例えば遺留分減殺対象財産に関する事柄が挙げられます。委託者は信託契約の中で相続に関する内容を指定することができますが、相続発生時の財産をすべて把握することは難しいです。信託財産から漏れ出てしまう財産というのも当然出てくるでしょう。

そういった財産を遺産分割協議から排除したい場合、遺言書を作成して財産の継承先を新たに指定する必要が出てきます。また、遺留分減殺請求があった場合に家族信託契約と遺留分減殺請求のどちらが優先されるのかは不明瞭なことが多いです。

デメリット2:成年後見制度でなければカバーできない部分がある

遺言書でなければカバーできないことがあるように、成年後見制度でなければ難しい部分も存在します。それは身上監護の問題です。家族信託の受託者には身上監護権(しんじょうかんごけん)というものがないため、委託者本人の入院手続きや施設への入所手続きに関与することができません。このような場合では成年後見制度を利用し、後見人を選任する必要が出てきます。後見人は法定代理人として身上監護を行使し、様々な手続きを代理で行うことになります。

しかし受託者が委託者の子供や家族であれば、入院や入所に関する手続きを行うことができるので、必ずしもこのケースが当てはまるというわけでもありません。

デメリット3:税務上の申告義務が手間となる

信託財産から収入が発生する場合には、信託計算書・信託計算書合計表を税務署に提出しなければいけません。不動産所得がある場合も、不動産所得用の明細書・信託財産に関する明細書を別々に作成し、確定申告の際に提出する必要があります。しかし普段から税理士に依頼している方、または今後依頼するという形であればそこまで負担はないと考えて良いでしょう。

デメリット4:家族信託に大きな節税効果は望めない

家族信託を利用する際に念頭に置いておきたいのは、信託は目的ではなく手段の一つだということです。相続税の対策として、不動産の売却や買い換えを行ったり、財産の組み換えをしたりすることもありますが、直接的な税務上のメリットはないというのが本当のところです。

財産の管理が容易になるという点は大きなメリットですが、どのような目的のために家族信託を選ぶのかが明確でないと、有効な手段として家族信託を活用できない可能性もあります。

デメリット5:頼れる専門家が少ない

5つ目のデメリットとして、専門家の問題が挙げられます。家族信託は、2007年に信託法が大きく改正されて本格的に利用されるようになりました。新しい制度なため、実務に精通した専門家は非常に少なく、弁護士や司法書士だからといって、気軽に相談できる問題というわけではないのです。

書籍やウェブ上のホームページで知識を身に付けることは大事ですが、その情報を鵜呑みにして、当人たちだけで家族信託を行うことは危険ですし、避けたほうが良いでしょう。家族信託における財産管理の方法や仕組みをきちんと理解し、実務経験もある専門家を探すことも重要です。

デメリット6:受託者の暴走や、受託者を決める際のトラブルに注意

家族信託は財産管理を任せられる家族や親族がいて成り立つものです。しかし信頼できると思って任せた人物が、財産管理をずさんに行ったり、勝手に財産を扱ったりして暴走するなど、問題が発生するリスクがあるのも事実です。そのような問題が発生してしまっては当然他の相続人から不満の声が上がることもあるでしょうし、管理を一人に任せることになるので受託者を誰にするかで揉めることもあるでしょう。

こういったトラブルを防ぐためには、日頃から家族との信頼関係をきちんと築く努力をしたり、本当に信頼できる受託者を見極めたりすることが大事です。

家族信託の手続き

家族信託は昨今注目を集め始めている比較的新しい制度です。そのため概要や手続きの方法などがわからないという方も多くいらっしゃいます。ここでは家族信託の手続き方法についてご説明していきます。

家族信託をする目的を決める

家族信託を考える前に、なぜ家族信託を行うのか。家族信託でなくてはならないのかということを改めて見直す必要があります。場合によっては成年後見制度や他の方法を利用した方が良いということもあるかもしれません。

将来的に認知症や何らかの障害によって意思判断能力が低下し、財産管理が難しくなるかもしれないのであらかじめ家族に託しておきたい。相続争いを避けたい。子供たちに平等に財産を相続したいなど、理由は様々ありますが、自身の財産をどのようにしたいのか、何のために家族信託を行うのか、家族で相談する時間を設けるなどして家族信託を行う目的を明確にしましょう。

信託契約書を公正証書にする

家族信託を行う目的を明確化し、その内容を設定したら次は信託内容を文章に起こします。信託を行う目的を達成するためには、一つひとつの条文についてしっかりと考え、明記することが重要です。ただし信託契約書は必ずしも公正証書にする必要はありません。ですが内容の不備を防いだり信憑性を高めたりするためにも、公正証書にすることをおすすめします。

公正証書とするために必要なものは以下の通りです。

  • 委託者の印鑑証明書
  • 受託者の印鑑証明書
  • 委託者および受託者の実印
  • 固定資産課税証明書などの、財産に関する資料
  • 戸籍謄本など、家族関係に関する資料
印鑑証明書は発行から3ヶ月以内のものを使用してください。また、必要書類を用意する際には然るべき機関に事前に確認をするようにしましょう。

不動産の名義変更・登記を行う

信託財産には賃貸や現金などの他に不動産が含まれるケースもあります。その場合は家族信託契約を結んだ後、委託者の名義から受託者の名義へとすみやかに変更を行わなければいけません。名義変更の手続きは不動産の所在地を管轄している法務局で行います。

登記申請や手続きは個人で行うには難しい部分があるので、専門家に相談・依頼することをおすすめします。登記申請の手続きに必要なものは以下の通りです。

  • 委託者の印鑑証明書
  • 委託者の実印
  • 受託者の認印
  • 受託者の住民票
  • 固定資産評価証明書
  • 登記済権利証明書

家族信託専用の口座を開設する

信託財産の中に現金があれば、家族信託専用の口座を開設する必要があります。委託者の預金口座にある現金をそのまま信託財産として扱うことはできませんし、受託者は信託財産を自身の財産とは分けて管理しなければならないため、専用の口座を作り、そこに信託財産を預けることによって管理することになります

信託専用の口座を開設する際には、「委託者 ○○ 信託受託者 ○○ 信託口」というように信託財産であることを証明できるような名義にする必要があります。とはいえ「信託口口座」と呼ばれる信託専用の口座を開設できる金融機関はまだ多くないので、事前に確認するようにしましょう。

専門家に依頼してリスク回避を図る

家族信託を失敗しないためにも専門家に相談することは重要です。弁護士や司法書士といった専門家に依頼するのに、多額の費用がかかると心配する方もいらっしゃいますが、単に額面のことを考えるのではなく、契約内容に不備があったり信託が失敗したときのリスクも考えたりしてみてください。

家族信託の費用

最後に家族信託にかかる費用についてご説明します。基本的には後見制度などと比べコストがかからないものですが、公正証書を用意したり専門家に依頼したりする場合には別途費用がかかるので注意しましょう。

公正証書にかかる費用

信託契約書は自力で作成することもできますが、内容に不備があったり信憑性を疑われたりするなど様々な問題が出てくる可能性もあります。トラブルを避けるためには裁判官や弁護士などの公証人が作成する公正証書を用意するのが好ましいでしょう。

日本公証人連合会では、公正証書を作成する際の費用を以下のように設定しています。

目的の価額 手数料
100万円以下  5,000円
100万円を超え200万円以下 7,000円
200万円を超え500万円以下 11,000円
500万円を超え1000万円以下 17,000円
1000万円を超え3000万円以下 23,000円
3000万円を超え5000万円以下 29,000円
5000万円を超え1億円以下 43,000円
1億円を超え3億円以下 4万3000円に5千万円までごとに1万3000円を加算
3億円を超え10億円以下 9万5000円に5千万円までごとに1万1000円を加算
10億円を超える場合 24万9000円に5千万円までごとに8000円を加算 

この他に、公証役場での実費として確定日付の公正証書付与に700円/1通がかかります。

登記にかかる費用

アパートやマンションといった不動産を信託する場合には、登記費用がかかることになります。不動産の名義は委託者になっているので、それを受託者に変更することで、その旨を登記する必要性が出てくるからです。

登記にかかる費用として負担するのは、不動産の固定資産税評価額に対する4/1000の登録免許税です。登記に関する手続きも専門家に頼むことでスムーズに行えますが、その場合は専門家に対する報酬も発生してしまうので注意しましょう。専門家に依頼する場合はどれくらいの費用がかかるのか事前に確認をしておく必要がありますが、ほとんどの場合10万円以上かかると見積もっておいた方が良いです。

司法書士にかかる費用

家族信託に関する手続きの中で専門家のコンサルティングを依頼する場面があるかもしれません。前述した登記に関する手続きでは司法書士に依頼をする場合があります。司法書士に依頼した場合の報酬額は、およそ10万円以上が相場になっていますが、この金額は不動産の価額などによって大きく異なる場合もあります。専門家に依頼する際にはあらかじめ費用について確認するのを忘れないようにしましょう。

監督人や代理人にかかる費用

いくら信頼できる受託者に財産管理を任せるとはいえ、完全に安心できないという方もいらっしゃるかと思います。その場合には信託監督人や受益者代理人を選任するという方法があります。信託監督人とは、受益者が高齢であったり判断能力に衰えがあったりする場合、受益者に代わって財産管理をする人物を指します。一方受益者代理人とは、受益者に代わってその権利を代理で行使する人物のことを指します。

監督人や代理人に対する報酬の相場はおよそ月額1万円〜となっています。

家族信託の費用を抑えるためには?

家族信託には被相続人本人やその家族に対して多くのメリットがありますが、その中でも頭を悩ませるのは費用のことかもしれません。成年後見制度を利用したり専門家に依頼したりせずとも、財産管理を行えるのは家族信託のメリットですが、契約内容の不備や手続きのミスを減らすためには専門家に依頼することをおすすめします。

しかし実際は弁護士や司法書士といった専門家に相談する費用をできるだけ安く抑えたいと考える人も多いと思います。最近では相談料を無料にしている弁護士や、依頼に関する費用を分割払いできることもあるので、そういった専門家を探すことも家族信託にかかる費用を抑える一つの方法でしょう。

まとめ

今回は家族信託の概要からメリット・デメリット、手続きや費用に関することを網羅的にご紹介しました。家族信託を利用することで実際に財産管理が楽になる部分は多いです。しかし間違った方法では有効活用することができません。費用の面はさておき、経験のある専門家を探して相談するのが家族信託を最大限に活用する上では大事なことでしょう。